養父市とツツガムシ



 9月下旬から10月になると毎年決まって腹部や肘部内側の発疹患者が多数診療所を受診しました.
 1996年赴任1年目は少し疑問に思うだけ.前任者の医師もカルテに毎年こんな発疹がでる,と記載がありました.
 1997年赴任2年目同様の患者が来診するため,

 大屋町立南谷診療所と大屋町保健センターが共同して,大屋町南谷地区405世帯,924人にアンケート調査を施行.
 回答312世帯(回収率77%)
 48%(240世帯)に痒疹発症
 痒疹発症の36%は屋外活動後半日~1日以内に発症
  例:畑仕事,草取り,栗拾い,柿ぼり,墓掃除
  特殊な例として屋外に干した衣類を着用後に発症した例も
   (後から考えるとツツガムシを運んでくる鹿は大屋町内では人の数より多いし,庭先にまで入り込んでくるし,洗濯物とも接触しているのも十分考えられる程.)

 以上より屋外でのダニ類による刺傷が原因と推定
 インターネットで我が国の専門機関を検索,福井医科大学高田伸弘助教授チームの協力を得.
 1998年11月,町内現地調査

これがツツガムシ採取法:黒布見取り法
10㎝×10㎝の黒布を草の上に置き,均等に圧着できるよう餅焼きの網をその上にさらに置いて
足で数秒踏みつけます

 そうすると多いところでは10㎝×10㎝の黒布の上を5~10匹?(と数えるのかは不明)の体長0.3㎜程度の白黄色のツツガムシが動き回っているのが見えました.
 初めて見たときは見ただけで痒くなりました.後に自分一人で町内外を検索したときはツツガムシの分布はスポットなので発見するとうれしくなるものです.

 

顕微鏡で拡大するとこんな感じ

 中国・四国地方でタテツツガムシ(Leptotrombidium scutellare)を初めて発見しました.
 他,路上に轢死していたイタチからタテツツガムシ1種,ねずみ取りで捕獲した野ねずみからタテ,フトゲ,ヒゲツツガムシを同定しました.

同年に発症したツツガムシ病患者さん(75歳女性)の刺口です


 詳しくは次の論文を参照してください.
 
 オオヤ・ミナミダニ病の発生からツツガムシ侵淫地の確認まで
 公立八鹿病院誌 8:47-53,1999. →PDF
 大屋町での発見を契機として,その後,高田准教授らは広島県,徳島県などそれまで発見されていなかった地域でもツツガムシを確認されています

広島県におけるツツガムシ病の発生相とタテツツガムシの初確認について 
 岩崎博道,高田伸弘,矢野泰彦ら.→PDF

 このような知見を得たので,
 1999年,町保健センターと共同で兵庫県大屋町全戸(1617軒)アンケート調査施行
 全体の25%,289人にツツガムシ刺症疑いの秋季痒疹を確認
 全戸にツツガムシ注意報チラシを配布→PDF

 地元の小学校の課外授業で学校の裏山で小学生と一緒に黒布見取り法でツツガムシを採取,
 実のところここにも一杯いた.教室に帰って顕微鏡でとれたばかりのツツガムシを一緒に観察,
 加えて,刺傷予防法を講義した.講義後の小学生の感想文 →PDF
 この子は現在立派に市役所の保健師さんになられてます.

 周知・啓蒙によりツツガムシ痒疹の患者さんは大幅に減少し現在に至ります.

 その後,大屋町でのこのような活動を契機として,同じ兵庫県内でも
 2000年 和田山保健所 →調査報告書PDF
 2003年 佐用健康福祉事務所→調査報告書PDF
  
 ツツガムシ分布実態調査が行われ,ツツガムシを同定.健康保健事業として継続・発展をみました.
 特に,佐用健康福祉事務所の調査では発症要因に関してロジスティック回帰分析を用いて詳細に検討され,
 大屋町と同じように住民に対する啓蒙パンフレットも作製されています.

 また,2014年,兵庫医科大学皮膚科学教室 夏秋 優 准教授が大屋町を来訪.
 採取したツツガムシを自身に吸着させるという臨床実験を果敢に行われ,
 痒疹の形成過程を病理組織学的に検索,
 その結果,痒疹はT細胞主体の炎症反応であること,吸着後2~3日かけて病変が完成することを証明されました.→ PDF

 著者参考文献

 オオヤ・ミナミダニ病の発生からツツガムシ浸淫地の確認まで(原著論文)
 馬庭 芳朗, 高田 伸弘, 矢野 泰弘, 石畝 史, 小畑 宗機, 北尾 治一, 柴山 慎一
 公立八鹿病院誌(1341-3856)8号 Page47-53(1999.12)